「新しい地図」がスタッフクレジットを公開した理由

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SMAPのメンバー3名と旧マネージャーが新たに立ち上げた「新しい地図」。そのteaser映像に携わったクリエイティブスタッフのクレジットが先日公開された。

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Brand Film vol.2

CD多田琢 山崎隆明 権八成裕

CW権八成裕

AD佐野研二郎

Dir田中秀幸

Cinematographer田島一成 岡村良憲 今村圭佑

STY:細見佳代

Edit小林真理

Music:緑川徹

Pr:稲垣護

https://contents.atarashiichizu.com/?page_id=41

 

まさに「広告界のSMAP」と言えるラインナップである。

以前、当ブログの記事でクリエイティブメンバーの予想をしたことがあるのだが、私が予想したうちの一人「権八成裕」の名もしっかり入っていた。

「新しい地図」のクリエイティブは誰の手によるもの? - エンタメとテクノロジーの未来を考えるブログ

これで、当ブログの考察の信憑性が少しは増したことを願う。

しかしながら私は一つ、別の予想を大きく外した。同じブログで私はこうも書いた。

もしかしたらクリエイティブチームのクレジットが表に出ることはないのかもしれない。

正直言ってクレジットを公開することはまずないだろうと思っていた。理由は明確で、一言で言えば「共犯者」になるからだ。既得権益者に対して反旗を翻した彼らに協力することは、様々な利権が絡み合うマスコミ業界において決して優位に働く事はない。一目見れば広告業界のエース級が作っているとわかるレベルの作品ではあったが、制作者たちは皆一様に匿名を貫くのではないか?というのが私の読みだった。しかし現実にはそうならなかった。

 

そもそも一般的に、広告を目的とした映像作品に関して、クライアント側が制作クリエイターのクレジットをここまで細かく記載するなんてことは、結構稀である。ではなぜ「新しい地図」はわざわざそんなことをしたのか?出す必要のないものをあえて出したのには当然理由がある。

 

考えられる理由は2つ。

1つ目は(すでに各所で言われているだろうが)ファンへのメッセージ。

ここにクレジットされているクリエイターの多くは、これまでSMAPというブランドを共に作ってきた人物たちだ。これによって「新しい地図」はファンに対して「SMAPというブランドと、そのストーリーは続いている」ということを示しているわけだ。

 

そして、重要なのはもう一つの方である。

そのもう一つのメッセージは、ファンや大衆ではなく「マスコミ業界」へと向けられている。

 

どういうことか?

これだけエース級の広告クリエイター達がこのプロジェクトに協力している。ということをわざわざ発信することで彼らは「私達と仕事しても大丈夫なんですよ」というメッセージを送っているわけだ。なぜなら上述の通り、彼らと仕事をすることは「共犯者」と見られるリスクを伴う。だからその意味で、今回公開されたクリエイター達の名前は、既存のマスコミ業界に対する強力な「印籠」として機能する。それだけこのクレジットの公開と、そこに記された人物達の影響力は大きい。

  

ではなぜマスコミ業界に対してそんなメッセージを送る必要があるのか?

答えは簡単だ。彼らはこれまで通りマスコミ業界でも仕事をしていきたいのだ。だからこそ印籠が必要だったのだ。AbemaTV出演のニュースに象徴されるように、彼らに言及する論調の多くは「マスメディアからネットへシフトした」というものだ。それこそ私も最近までそう思っていた、だが違った。彼らはマスメディアとネット両方を制圧しようとしているのだ。

 

いずれにしてもファンにとっては、マスメディアにおいては「これまで通りの3人」が。

そしてネットメディアでは「まだ見たことのない3人」が見れるという素敵な未来が開けているのかもしれない。

引き続き、彼らから目が離せない。

 

 

[追記]
ちなみに多くのネットメディアは「佐野研二郎」の名前に反応しているようだが、これについてはライターの無知もいいところで、彼は例のエンブレム問題以降も広告業界での地位はほとんど揺らいでおらず、素晴らしい仕事を多く発表している。別に驚くことは何一つない。彼はこれまでもこれからも優秀なクリエイターだ。

 

 

真鍋大度がビットコインをアートにするとこうなる

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オーストリアリンツで毎年開催される世界最大級のメディアアートの祭典「アルス・エレクトロニカ(Ars Electronica)」。今やほとんど常連とも言える真鍋大度らが今回展示した作品がこの"chains"である。

www.youtube.com"chains" Daito Manabe + Yusuke Tomato + 2bit Ishii with support of sivira

一言で言えば世界中で行われているビットコインの取引を、映像と音でリアルタイムで可視化・可聴化させ、さらに自動取引まで行うという作品だ。東証のリアルタイムデータを音と映像に変換する"traders"という作品の発展系である。

本作“chains”が初めて発表されたのはドイツ・カールスルーエのZKMで2016年に開催された「GLOBALE: New Sensorium」だ。その際のインタビューが公開されているので紹介したい。(貴重なインタビューのわりに再生回数が残念なことになっているのが非常に勿体無い)

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注目すべきは、真鍋自身がブロックチェーンビットコインに関して、やや懐疑的なスタンスをとっている点だ。勝手なイメージではあるが、彼らのようなGeekは新しい技術に対して常にポジティブに反応するのがデフォルトだという先入観を持たれる方は多いのではないか。興味深い発言を多少要約をしつつ抜き出してみよう。

いろんな有識者が(ブロックチェーンは)インターネットと同じくらいの発明だと表明しているが、非常に複雑で取引の背後にあるテクノロジーも直感的ではない。今は、新しいテクノロジーが出現した時には必ず訪れる「いいものなのか悪いものなのか検証しなければいけないフェイズ」にある技術だ。ブラックボックスになっているところが多い技術だなと思っていて、その部分を作品を通じて暴くために本作を作った。

これまでにない新しい技術と対峙した時に、それが自分たちにとって薬なのか毒なのかを確かめるという態度は、少し飛躍するがきっと原始人が火を発見したり、見たこともない動植物と出会ったりした時にとる態度と同じなのだろう。

その感覚を今の時代においてもっとも肌で感じているのは彼らのようなメディアアーティスト達なのかもしれない。ただ原始人と違うのは、彼らはアートやエンターテインメントを通じて「確認」を試みるところだ。アート・エンターテイメント・テクノロジー、その交差する点にこそ人類の未来=可能性が潜んでいるのかもしれない。

 

映画『Ghost in the Shell』の世界が実現しない理由 〜広告と規制の話〜

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2017年4月に日本公開され、それなりに話題を呼んだ実写版映画『Ghost in the Shell』。最近はパッケージとデジタル版がリリースされ、そこそこ売れているらしい。
原作ファンである筆者的には非常に楽しめる内容であったが、とりわけ印象に残ったのが、都市の未来描写に使われている「ホログラム広告」の美術演出だ。

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公式twitterによると監督のルパート・サンダースが新たに攻殻機動隊の世界に加えたもので、正式名称はソリグラム(=ソリッドなホログラム)と言うらしい。

SF的な未来演出ではあるが、技術的に可能になる日はそう遠くないだろう。実際にフィジカルデヴァイスを介さない肉眼でのVR技術は世界中でもの凄い勢いで開発が進んでいる。しかし現状ではホログラム広告は”仮に技術的に可能だったとしても”都市空間への実装は不可能なのだ。

問題は行政による見えない規制の壁にある。あまり知られていないが日本は屋外での広告規制が非常に厳しい。数年前、改築直前の東京駅で行われた大規模なプロジェクションマッピングを覚えている人も多いだろうが、その際に製作者側がもっとも苦労したのは規制の壁だったという。


例えば、東京都屋外広告物条例によると、建築物の壁面を利用する場合、広告面積の合計は当該壁面面積の3/10以下であること。表示面積は、商業地域では100㎡以下、など細かく規定されている。

Ghost in the Shellの「ソリグラム広告」の場合は現状の条例と照らし合わせると、突出型壁面広告物に該当するっぽいので、「建築物からの出幅が1.5m以下」という規制が発生する。これではどう考えても実装は無理だ。

これはあくまでSF映画へのマジレスなので野暮といえば野暮だ、しかしながらこの手の分野の最前線で活躍しているライゾマティクスの齋藤精一氏も、都市でプロジェクションマッピング等の作品を作る際の最大のハードルは法的規制だと言う旨の発言をしている。景観保護や道路交通法、屋外広告物規制などの行政規制が実施へのハードルとなっているのだ。

wired.jp

テクノロジーの進化に法律が追いつかないという残念な事例は、きっとこれからもっと増えていくのだろう。例えば中国のドローン特区=深センのような実験都市がもし日本にできれば間違いなく世界は変わるわけだが、果たして。。

「新しい地図」のクリエイティブは誰の手によるもの?

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SMAPのメンバー3人が公式ファンサイト「新しい地図」を立ち上げ大きな話題を集めている。

端的に言ってほぼ完璧なクリエイティブだと思う。

“逃げよう” という鮮烈なフレーズから始まるこのステイトメント(声明)の狙いは、一言で言えば「大衆を味方につける」ことだ。既得権益者とオルタナティブの対立軸をセンセーショナルなまでに明確化することで、彼らは大衆を自分たち側、つまりオルタナティブ側に引き入れようとしている。彼らの周辺にまとわりついてきたドロドロとしたイメージをあえてバネとして利用することで、全てのネガティブをポジティブに(大きな振り子のように)変換させようという素晴らしいコピーだ。

気になるのは、この素晴らしい作品を作ったクリエイターが誰のなのか?ということだ。映像業界の友人達に聞いてみたが残念ながら今の所はっきりとした答えはわからない。
これはあくまで個人的な予想だが、クリエイティブディレクターには澤本嘉光、佐々木宏、権八成裕あたりが、そして映像ディレクターとしては関根光才あたりが絡んでいる気がするのだが、果たしてどうだろう。
少なくとも本件については日本広告界のエース級が名を連ねていることは間違いなく、このteaserだけでも相当な予算がかかっていることが見て取れる。今後さらに第2弾の映像が配信されることを考えるとナショナルクライアントのTVCM級(数億円規模)のプロジェクトだろう。

しかしながら、もしかしたらクリエイティブチームのクレジットが表に出ることはないのかもしれない。悲しいことに彼らは今後いわゆる「圧力」がかかることを想定しているようにも見える。
それはビジネスモデルからも明らかで、メディア出演や広告など既得権益者とのパワーバランスの上で成り立つ”to B”的モデルは今後成立しづらくなる事を前提として、ファンから直接的に収益を得る"to C"的モデルをビジネスの軸として優先して行こうという意思がこのサイトからも感じ取れる。

この挑戦の先に果たしてどんな世界が広がっているのか?鍵を握るのはファン、そして大衆である。

縛り付ける全てのものから解き放たれた彼らは、いま大海原へ船出しようとしている。その手に「新しい地図」を携えて。

新しい女性向けメディア『She is [シーイズ]』がイケている

CINRAが手がける新しい女性向けメディア『She is [シーイズ]』がイケている。
女性向けメディアというと既に飽和状態で今更感すら漂うところだが、『She is』は少し様相が違う。

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9月に正式ローンチされたこの新メディアの軸は大き分けて2つ。女性をとりまくカルチャーや思想を伝えるウェブマガジンと、有料メンバーを対象に毎月「ギフト」を(物理的に)提供。この2軸で構成されている。

前者のマガジン部分でいうとローンチタイミングで作家・川上未映子のインタビューを掲載。「自分らしく生きたいと願う働く女性」をターゲットとしているという通り、女性向けコンテンツの鉄則の一つ「共感」を誘いつつ、同時に読者の「誰かとは違う自分」感をくすぐる非常に巧みな内容に仕上がっている。そして何より写真のクオリティが抜群に高い。

sheishere.jp

特筆すべきは2点目の有料メンバーに向けた月額サービスである。
簡単に言うと、有料登録(3,500円/月)をすると、マガジンのテーマと連動したギフトが毎月届けられると言うものだ。このアプローチはちょっと面白い。

sheishere.jp

近いサービスで言えば「My Little Box」が挙げられるだろう。
My Little Boxとは、厳選されたコスメや今パリで流行っているおしゃれなアクセサリーなどの詰め合わせが毎月1箱届けられるというサービスだ。3,200円 / 月という価格設定で、グローバルで10万人の会員を抱えている。成功例は既にあるわけだ。 

EC市場がこれだけ成長し、ユーザー側も購買機会が増えている中で、鍵となってくるのは間違いなくその商品が帯びている「文脈」である。例えば「好きなアーティストが使ってる」だったり、「SNSでフォロワーさんに紹介された」とかそういうやつだ。
だから記事を通じて文脈を自分から作り出すことができる「メディア」というものは、初めからECと相性がいい。単品販売のマーケットモデルではなく、サブスクリプションモデルを選んだところも賢い判断だと言える。

編集長を務める野村由芽さんも、インタビューなどを拝見すると非常にピュアで、おそらく「本当に自分がやりたいと思うことをやっている」のだろう。メディア運営において最も重要な情熱を備えていることが伺える。

唯一難しいなと思う部分は、ターゲット文化圏の設定範囲がやや狭くスケール可能性がそこまで大きくないという所だが、動画メディアと違い事業の初期段階で深く潜るタイプのモデルではないので、息切れさえしなければきっと良いメディアになるのではないだろうか。

PerfumeとRhizomatiksが作り出す特異点

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昨夜放送された「MUSIC STATIONウルトラFES2017」にてPerfumeが披露したパフォーマンスが話題を呼んでいる。

 Rhizomatiks Researchが手がけるこのカッティングエッジな演出技術の初出は、ちょうど一年前の同番組「MUSIC STATION ウルトラFES2016」だった。この時は「optical illusion」という呼称で紹介されており、その年のNHK紅白歌合戦ではさらにupdateされ呼称も「Dynamic VR Display(DVD)」と改められた。そして昨夜のパフォーマンスではさらにVR要素が強化され、現実とCG空間がもはや区別つかない、むしろ区別すること自体が無意味と言う圧倒的な没入体験へ到達していた。

まず分かりづらいことを承知で専門用語を使ってこの演出のタネを説明すると「モーションキャプチャー」「リアルタイム3Dスキャン」「カメラのトラッキングデータを基にした視点依存のグラフィックレンダリング」という3つの技術の組み合わせで作られている。

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写真は上下ともに2016年版(Rhizomatiks Research HPより)f:id:kwmr3:20170919073117j:image
理解の助けとなるメイキング動画が真鍋大度氏のYouTubeチャンネルに公開されているので紹介したい。

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分かりやすいのは0:58あたりからだろう。普通の視点で見るとスタジオの床と壁に幾何学模様が映し出されているだけだが、カメラの視点から見るとあたかもCG空間に人間が浮いているように見える。つまりこれは一種の錯視だ。そもそも初出時の呼称「optical illusion」とは日本語に訳すと「光学的錯視」である。

もっとシンプルに理解するには、以下の動画を見ればいい。

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この動画と、昨夜のPerfumeのパフォーマンスは根本的なアイデアとしては同じことをやっている。つまり、ある一点から見ると立体物が平面に見えたり、逆に平面が立体に見えたりと言う古典的な錯視表現である。

ただPerfumeRhizomatiks Researchは、この表現を「カメラが動いてもずっと錯視状態が続く」ように床や壁に出力する映像をリアルタイム制御しているのだ。この技術がとんでもないのだ。

世界中探してもここまで高度なテクノロジー表現を、アートフェスや美術館といったハイコンテクストな場所ではなく、テレビで一般大衆に向けて届ける(しかも生放送で)なんて本当に稀だし、それが大きな反響を呼ぶというのも俄かに信じがたいことでもある。
もしかしたら50年後100年後、世界のエンタメシーンの歴史を語るときにPerfumeRhizomatiksとの出会い、そしてそこから生まれた数々のコラボワークは、一つの重要な特異点として語られることになるのかもしれない。

 

情報を体験に昇華させるNIKEの新ユニフォームが面白い

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先日NIKEが発表したNBAユニフォーム「ナイキ NBAコネクテッド・ジャージー」がなかなか面白い。
詳しい説明は後にするとして、まずはこの動画をご覧いただきたい。

簡単に言うとこうだ。
このレプリカジャージーには小型のNFC(near field communication)チップが搭載されている。ファンはそのチップにモバイル端末をタッチする事で、試合会場到着時の選手の映像、試合のハイライト動画、最新のゲームスタッツ、さらには選手が試合前に聞いているお気に入り音楽のプレイリストなど、様々な限定コンテンツがチェックできるという仕組みだ。

実はこの手のファンアイテムは日本のエンタメ業界でもすでに近いものが作られている。例えば、世界を舞台に活躍しているモンスターバンド・ONE OK ROCKは、特別サイトへのアクセスコードが封入された写真集を年に一冊販売している。この特別サイトではライブチケットの先行販売をメインとして、メンバーのオフショットムービーなどの限定コンテンツが楽しめるという仕様になっており、旧来の年会費型ファンクラブモデルとは違った、グッズ購入型ファンクラブとして業界内で注目を集めている。

だが両者には大きな違いがある。それはアクセスコードではなくNFCを採用している点だ。
アクセスコードの場合は一度入力してしまえば、そのアイテムが手元になくてもサービスを受けられる。つまり購入してコードを入力した時点で「モノ」と「情報」が切断されてしまうのだ。しかしNFCの場合はジャージーを身につける(最低でも手に取る)必要が出てくる。つまり「モノ」と「情報」が結託することによって、そこに「体験」が発生する。単にSNSで上がってきたハイライトムービーを見るのと、選手と同じユニフォームを身につけてそれを見るのとでは視聴体験が感覚としてまるで変わることは想像に難くない。

そもそもファンにとってレプリカジャージーとはチームへの愛情や忠誠を燃え上がらせる為の《拡張デバイス》だ。それを身につけた状態でのコンテンツ消費体験は、ファンの熱量をさらに倍増させチームとの一体感をより強化する効果を発揮するだろう。

シンプルなアイデアながら、単なる情報を体験に変化させる優れたデザインと言えるのではないか。